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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.200 『証言モーヲタ~彼らが熱く狂っていた時代~』 吉田 豪/‎白夜書房

蔦屋書店・丑番のオススメ『証言モーヲタ~彼らが熱く狂っていた時代~』吉田 豪 /‎白夜書房
 
 
プロインタビュアーにしてプロ書評家の吉田豪さん。著作が出ると必ずチェックする著者のひとりだ。『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)や『男気万字固め』(エンターブレイン、のち幻冬舎文庫)といった芸能人を対象としたインタビュー集では、アウトローな芸能人や世間のイメージと実像に大きなギャップのある芸能人のエピソードを「本人よりも本人に詳しい」と言われる下調べから、引き出していた。
『五体不満足』(講談社)出版後に、聖人君子のようなイメージに苦しんでいた乙武洋匡さんのブラックな一面をきっちりとまとめたのは吉田豪さんの功績だろう。乙武さんも語っているのだが、それまでの取材でブラックな発言をしたとしても、取材者のイメージにそぐわない発言は、編集でカットされ、報じられなかったようだ。
アイドルへのインタビューも吉田豪さんのフィールドのひとつ。『元アイドル』(ワニマガジン社、のち新潮文庫)はすごい本だった。アイドルは特殊な芸能のジャンルだ。生涯アイドルとはいかず、必ず「元アイドル」になってしまう。元だからこそ語れるアイドルというお仕事の特殊性や問題点について語られていた。
 
2021年9月に出版された最新刊『証言モーヲタ』は雑誌『BUBKA』での連載をまとめたもの。2000年前後の全盛期のモーニング娘。にのめり込んだヲタ15名に、当時のどうかしているエピソードを語ってもらったインタビュー集。ライムスターの宇多丸さんや杉作J太郎さんのような著名人も登場するが、その界隈では有名でも世間的には無名な「有名ヲタ」たちが多数登場する。
モーニング娘。に詳しくない人でも楽しめる。それはこの本がモーニング娘。そのもの、ではなく、何かに熱狂している人たち、文字通り熱く、狂っていた人たちを描いているからだ。ヲタというだけで職業も年齢も関係なく集い、ファミレスで朝まで話すことができた。それは遅れてきた青春のようである。
そして、この本の最大の面白みは15人の証言がさまざまに重なり合い、補強し、矛盾しあうところ。同じ出来事であってもそれぞれの立場で物事の見方が変わっている。忘却や記憶違い、意図的な嘘もあるだろう。そのことも含めて立体的に当時のシーンが立ち上がってくる。それぞれの証言をするヲタについてもプロフィールは最小限しか提示されず、むしろそれぞれの語りが補強しあって、人物像が具体的に想起されてくる。一読目より二読目のほうが楽しめる。
 
この本に似ているのは、『イーディ』(筑摩書房)だ。
 
 
 
60年代のポップ・アイコンであるイーディ・セジウィックの生涯を150人あまりの証言で構成したジーン・スタインとジョージ・プリンプトンが作り上げたオーラル・バイオグラフィーと言うスタイルの本。地の文が一切なく、語りのみで構成されている凝りに凝った一冊だ。アンディ・ウォーホルのファクトリーのミューズでもあったイーディについてのそれぞれの語りは補強し、矛盾しあいながらイーディという複雑な人物、そして、60年代という、どうかしていた時代の熱を伝えてくる。『イーディ』のオーラル・バイオグラフィーというスタイルをモーニング娘。ではなく、モーヲタシーンに当てはめたのが『証言モーヲタ』なのである。
 
そして、『証言モーヲタ』は、ただ当時を懐かしがって、よかったね、で終わらせていないところも素晴らしい。ひとつはアイドル対してファンとしての倫理が欠けている点があったのでは、という視点があるところ。また、ヲタがとったファンカルチャー内の行動がいまの観点からは許されないのでは?という視点がちゃんとあるところ。吉田豪さんはそこに90年代悪趣味文化の影響も見ている。
 
この本はまだ完結していない。『BUBKA』での連載はまだ続いている。今作で名前があがっているヲタでもインタビューされていない方もいる。いまの形式は、ヲタごとのインタビューとして各章にまとめられているが、時系列順、事象ごとにまとめられた『イーディ』スタイルの『証言モーヲタ増補版』も読んでみたい。
 
 
 
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