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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.250『戦争日記』オリガ・グレベンニク 著 奈倉有里 監修 渡辺麻土香、チョン・ソウン 訳/河出書房新社

蔦屋書店・中渡瀬のオススメ『戦争日記』オリガ・グレベンニク 著 奈倉有里 監修 渡辺麻土香、チョン・ソウン 訳/河出書房新社
 
 
ロシアがウクライナ侵攻を開始してから、もう7ヶ月が経ちました。荒れ果てたウクライナの地と、そこで怯える人たちを思うと、胸がギューっと締め付けられます。
 
少し前に「戦争日記」という本を読みました。
この本は、ウクライナの絵本作家であるオリガ・グレベンニクさんがロシアによる侵攻が始まってから地下での避難生活を経て、国外に脱出するまでの体験を書きとどめたもの。
鉛筆一本で書かれた絵と文章です。
 
とりもあえずのタッチからは、今起きていることを記しておかなければという焦りが感じられ、切迫感が滲んでいます。
そして、書くことで心を落ち着かせよう、恐怖を紛らわせようとしているように感じられるだけに、ことの深刻さが迫ってくるのです。淡々としているのだけれど、確実に不穏な空気に支配されています。
 
あるページには
「戦争が始まった日、うちの子どもたちの腕にも名前と生年月日、そしてわたしの電話番号を書いた。子どもたちだけでなく、自分の腕にも書いた。万が一、死んでしまっても身元が分かるように。恐ろしいことではあるが、そう思って事前に書きとめておいた」
とあります。
 
取り乱すのではなく、逆に、彼女をこの冷静さに行きつかせたものの正体が怖くて言葉をなくしてしまいました。だから、読んではみたものの、感じたことをどう書けばいいか分からずにいました。
 
ちょうどそのころ、平和公園を訪れたときのこと。
身元不明の遺骨が眠る原爆供養塔に向かいました。ここは私にとって一番胸にくる場所です。原爆投下の直前まで、そこで生活を営んでいた人たちが確実にいたのにそれが誰だったのか分からない。その存在を証明する人物もろともに一瞬でなくなってしまったから…。「壊滅」を象徴する土まんじゅうの前に立つと、この、名までも奪われた人たちの犠牲こそが戦争の悲惨さを物語る最たるものではないのかと改めて思いました。やっぱり胸がギューっとしてしまって、グレベンニクさんのことが心をかすめました。死を覚悟し、身元が分かるようにと腕に名前などを記す、その切実さが痛みとなってキリキリと刺してきたのです。
 

ウクライナによる反転攻勢、ロシアによるウクライナ4州併合など、戦況は長期化の様相。核使用の懸念もあります。この戦争は、何をもって終わりとなるのだろう。
色々考えてみたけれど、私の中に最後に残ったのは、ただただ、戦渦に巻き込まれた人たちに死の覚悟なんてさせないでほしい、という思いです。どの地にも、そこで生きている人たちがいて、その一人一人に名前があるのです。
 
「戦争に勝者はいない。そこにあるのは血、破壊、そしてわたしたちひとりひとりの心の中にできた大きな穴だけだ」とグレベンニクさん。
 
グレベンニクさんは、この本をウクライナでは敵の言語と扱われるようになってしまったロシア語(ロシア語はオリガさんの母語である)で書きました。戦争をやめろというにとどまらず、ロシア語表記に込められた「人間を言語や民族で分けない」という強いメッセージを、しっかり受け止めたいと思います。
 
 
 
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