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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.297『このきのこ』おおうちもとひろ うつろあきこ 絵 / LITTLE MAN BOOKS

蔦屋書店・犬丸のオススメ『このきのこ』おおうち もとひろ うつろあきこ 絵 / LITTLE MAN BOOKS
 
 
最近、このような症状はないですか?
 
①なんとなく毎日がつまらない
②明日の仕事のことを考えちゃう
③身体にいつも力が入ってしまう(緊張する)
④頭が固くなってきた
⑤きのこ不足だ(きのこを思いっきり味わいたい)
 
今回はそんな方に(そうでない方にも)、とってもお勧めの一冊を紹介します。
『このきのこ』。
題名を読んで、なにか気づきませんか?
そうです。そうです。左から読んでも右から読んでも『このきのこ』。この本は、すべて回文で書かれているのです。しかも、すべてきのこの回文なのです。
 
まず、この本を手に取ったなら表紙をじっくりと眺めましょう。黒くしっとりとした肌触りの表紙の中に小さく銀色に光るきのこがひとつ。少し笑っているようにも見えます。これから訪れる摩訶不思議なきのこの世界への案内きのこでしょうか。秋の森のような色の『このきのこ』の文字が浮き上がってきて、なんだかこちらに迫ってくるようです。この表紙に少しだけ不安になるのは私だけではないはずです。ですが、思い切って表紙をめくってください。
 
すると……。
 
ゆるい!なんでしょうか。このゆるさは。
一気に緊張や不安が抜け、脱力してしまいます。
急に町の楽団が現れて、ラッパや太鼓をたたいているような明るさ。このギャップはぜひとも味わってほしい。表紙の雰囲気から想像しなかった、「やられたー!」感。
回文にはそれぞれきのこが登場し、どれも洒落ています。食卓でおなじみのきのこから、珍しそうな名前のきのこまでバラエティーに富んでいて、そのきのこたちが悲喜こもごも、森で家で教室で探され食され愛され、時にはスポーツをしたりライブへ行ったりと、愉快に登場するのです。
しかも、きのこの特徴までもうまく回文に取り込まれていたり、長いものでは50文字以上の大作もあります。
著者のおおうちもとひろさんのプロフィールにある「きのこ回文家」という肩書に、みなさんも大いに納得していただけることでしょう。
 
しかも、しかも、この回文を引き立てるさらなる魅力は、うつろあきこさんによる絵です。回文の世界観を実に見事に表現しているのです。それはもう「これしかない!」というまでに。ちょうどよいゆるさが笑いを誘います。とはいえ、きのこは忠実に描かれていてきのこへの愛の深さがにじみ出てしまっているのです。
 
『このきのこ』からは、相性のよさというものがとても感じられます。お互いがお互いを引き立てていて、制作中にはうつろさんがおおうちさんの回文に「すごい!」と感嘆したり、おおうちさんがうつろさんの絵に「おお!」喝采したりしたのではないでしょうか。この本に携わった人すべてが「きのこが好き!」で集結し、とにかく楽しんでしまったような一冊なのです。
 
そのうえ、ちょっと回文に挑戦して見たくなります。いつか、俳句の会のような回文の会なるものができ、みんなで集まって短冊にさらさらと回文を書く、なんてことが流行ってほしいものです。おおうちさんには「フム…」などと言いながら添削してもらい、誰かが最後に「では、先生も一回文お願いします」というと見事な回文が読み上げられ、みんなで「ほーー」などと言っている姿を妄想してしまいます。
 
ここで最初の症状に戻ってみましょう。
①なんとなく毎日がつまらない → 『このきのこ』でムフフと笑える
②明日の仕事のことを考えちゃう → 『このきのこ』で明日のことを悩むのがどうでもよくなる
③身体にいつも力が入ってしまう(緊張する) → 『このきのこ』のゆるさで身体の力が抜ける
④頭が固くなってきた → 『このきのこ』で回文に挑戦し頭が柔らかくなる
⑤きのこ不足だ(きのこを思いっきり味わいたい) → 『このきのこ』できのこ不足が解消される。とにかくお腹いっぱいになる
と、症状回復への効能が見込めそうです。個人差はもちろんあるでしょうが、試してみてもよい一冊であることは間違いありません。
 
 
【プロフィール】
おおうちもとひろ
きのこ回文家。サックス吹き。関東きのこの会副会長。
小出版社専門オンライン書店「書肆ならたけ屋」を経営しつつ、日々あらゆる言葉を逆さまにして暮らしている。
「神の子おおうちもとひろ。人、餅、魚お好みか」
(かみのこおおうちもとひろひともちうおおこのみか)
 
うつろあきこ
漫画家。
ある日タマゴタケを見つけたことから、きのこ愛に目覚める。コミックエッセイ『かわいいきのこ』(イースト・プレス)を刊行。その他の作品に『宇宙屋台へおいでませ』(全2巻/小学館)などがある。
「良く噛みな。うつろ見てみろ。通な味覚よ」
(よくかみなうつろみてみろつうなみかくよ)
 
 

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