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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.299『西荻さんぽ』目黒雅也/亜紀書房

蔦屋書店・古河のオススメ『西荻さんぽ』目黒雅也/亜紀書房
 
 
西荻愛に溢れた本書。著者の目黒雅也さんが2022年から着手し、本年7月に初版発行された。
 
目黒雅也さんは、杉並生まれ杉並育ちのイラストレーター・絵本作家である。大学時代には、なんと安西水丸氏(2014年没)に師事、本書のイラスト一つ一つが、師の息づく味わいを醸し出している。
 
ところで、書名の西荻(にしおぎ)とは何処か?
 
東京駅発の中央線で、四谷→新宿→中野→荻窪、そして隣の西荻窪駅で下車する。そこには西荻の個性あふれるお店が軒を連ねている。西荻とは、西荻窪の略称、西荻北や西荻南の町名でもある。東京は兎に角広い。東京都の人口は約977万人4千人、杉並区には約58万人が暮らす。さんぽをすれば、様々な人の暮らし、生き様を垣間見ることができるだろう。
 
そして本書には、目黒さんが選んだお店のストーリーが綴られている。話しているかのような文章と、愛情いっぱいのイラストが、優しく語りかけてくる。
 
―いつも、それいゆにいた。
長いことイラストレーションの作風に悩んでいた。
「うまく描こうと思わず、普通に描けばよい。そうすればその人にしか描けない絵になる」と安西水丸先生に教わったことは本当だった。
学生時代から挑戦していた公募に13年目にようやく入選することができた。
うまさとはほど遠い私のイラストレーションを選んでもらえたのは、他ならぬ“西荻の人びと”を描いたからなのだった―。(抜粋)
 
自分の居場所となった、喫茶それいゆの存在。目黒さんにとって、幸せな人生を歩むきっかけとなった場所でもあるのだ。

―西荻”極私的“気になる人列伝。
フレンチレストラン「こけし屋」。ここには「カルヴァドスの会」があって、井伏鱒二、松本清張、徳川夢声、田辺茂一、棟方志功、金田一京助、開高健、東郷青児、鈴木伸太朗といた文化人らが多数集っていた。もっとも活況だったのは、1970年代までとのことで、物心つくかどうかの子どもだった私はその空気を知らず、憧れは尽きない―。(抜粋)
 
歴史あるこけし屋、我が家ではアップルパイが優勢だった。73年間の営業に幕を閉じ、現在建て替え中、2025年の再開が楽しみである。
 
目黒さんの出身校・日大二高など、自分が学生時に住んでいた実家に近く、勝手に目黒さんを身近に感じている。自転車で行ったこけし屋も、伯母が営んでいた西荻の化粧品店も、本書を読めば読むほど、とても懐かしい。

杉並区は、昔から知性豊かな人物が行き交っていたから、だろうか。魅力的な書店が多く有名だ。もちろん西荻にも立ち寄りたい書店が多々ある。
書店には、毎日多くの本が並ぶ。時間をかけて自分で選んだ一冊の本。活字の世界に入るだけでなく、読者と作家を繋ぐのだ。様々な橋渡しの役割でもある、書店の存在。古典誕生から現在に至るまで、文豪が綴った心を読み耽る贅沢な空間、自分はそういう居場所が好きだ。

そして本書を持って、西荻さんぽをする。
目下の目標ができたこと、この1冊に出会えたこと、目黒雅也さんに感謝したい。

 
 

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